2016年1月18日月曜日

シェップの『報復の連鎖 ―権力の解釈学と他者理解』 齋藤博/岩脇リーベル豊美訳

当初の予告からだいぶ時間が経ってしまいましたが、本邦初訳のシェップ教授の大作『報復の連鎖』がようやく刊行されることになりました(現時点では2月20日発行予定)。
「報復の連鎖」というフレーズは、近時、世界的な規模でみられる紛争や衝突を表現する言葉として、あちこちで目にしますが、この本は現在の政治状況そのものをテーマとしたものではありません。もう少し根源的なところで、他者を理解するというメカニズムあるいは行為がどのようにして成立するのか、その理論的な問題を哲学的・心理学的に解明しようとした論考です。
人と人との関係、集団と集団との関係のなかで、私たちは些細なことから敵と味方を区別します。そこには必ず力(ちから)が作用し、力は正義の大義を得て、暴力に転嫁します。男女関係も国と国との関係も、根底には解釈の問題が横たわっています。
 
「報復の連鎖」などというと、時事問題を扱った評論だろうと思われる向きもあるかもしれませんが、この本はどちらかというと、「他者を了解する」ことを素材とした格好の現代の哲学入門の本とよんでもいいかもしれません。カント、ヘーゲル、ニーチェ、ハイデガー、フロイト、ラカン、フッサール、デリダなど、おなじみの哲学者たちの所説が、あるときは批判の対象として、またあるときは援用の対象として現れます。著者は、解釈論対反解釈論の構図として、今日の重要な「時事問題」を哲学的視点で切り込みます。

こういう本はやはり電子書籍には似合わないと思います。報復の連鎖がまさに世界で展開されている今日、哲学的読者の方々にはじっくりとお読みいただきたいと思います。

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